福岡の七隈ファミリーボウルがオープンした年、福岡空港からタクシーで七隈ファミリーに毎月3~4日1年間通いました。  
あるとき福岡空港からタクシーに乗り、センター名を告げると運転手は言いました。
「お客さんボウリングの機械でも直しに来たのかね?」
「違います。教えに来たのです」
「もしかしたらプロボウラー?」
すでに現役ではないので気が引けたのですが 「まあそんなとこです」 と答えたら、その運転手はさらに雄弁になり自慢話をはじめたのです。
「アタしゃーね、今でこそタクシーやっているけれど、ちょっと前までは博多じゃ知らない者はいないほどの有名ボウラーだったのよ。ボウリングでは稼がしてもらったよ。
テレビも頂いたし、エヤコンも、タンスも、ベットも、貰わなかったのは隣りに寝てくれるヤツぐらいだったよ」
「凄いネ・・・ちなみにAVGはどのぐらい?」
よくぞ聴いてくれたと言わんばかりに彼は言う 「オレのアベはね248よ」  
アベではなくハイゲームだとピーンとくるけれど、そこ底意地悪いわたくしのことだから 「凄いですね、248アベだったら本場の米国に行っても通用するよ。年間億は稼げるよ。
わたくしコネあるから紹介しようか?」 と言うとさすがに照れ笑い。そこで終わったけれど、ことほど左様にアベレージの認識が薄いのが現状を含めて現実なのでしょう。

 どのようなスポーツでも記録へのチャレンジだとか、戦うシステムがあります。
ボウリングも例外ではない。  ボウリングにおける技術評価基準、つまりあの人は上手か下手かの技術を評価する基準はハイゲームでもハイシリーズでもない。
トーナメントチャンピオンでもない、それは唯一アベレージ評価なのです。
いくら300打ったって上手いとは限らない。170程度のAVGがあれば300のチャンスはあります。170AVGは中級クラス、決して上手いボウラーではないのです。  
AVGが裏付けとなっている試合形式、それがボウリングでは唯一リーグなのです。
それと・・・ ボウリングの原型は紀元前3200年前、古代エジプト時代にさかのぼることができます。しかしわれわれのテンピンズは1895年のアメリカン・ボウリング・コングレつまり ABC設立がその第1ページといっていいでしょう。
このとき現在のルールの前提が確立されました。

 ABC設立以前にボウリングをやる人はすでにリーグを行っていたといいます。仲間と週1回決まった曜日と時間に顔を合わせ、飲んだり食べたりしながら仲間との交流を楽しんでいたのです。  儒教の影響かどうかは知らないけれど、あるいは明治時代、時の政府のキャッチフレーズ<富国強兵>の影響なのかもですが、日本人はどうもピュアースポーツ志向で楽しむということに潜在的罪悪感がいまでもあるような気がします。

ボウリングを“競技”と“レジャー“にわけたがる。これは創生期からです。いまだに抜け出せないでいます。 あらゆるスポーツは神聖でもピュアーでも何でもない、単なるアソビであり楽しみなのです。その中から選手が生まれ育っていけばいい。食べたり飲んだりしながら仲間との交流を通して楽しむ。それがボウリングの出発点であり、基本であり原型なのです。だからこそチーム戦なのです。たしかにボウリングは個人スコアの累積でチームのスコアとなりますから、個人戦が基本という見方もできなくはないのですが、そしてそれは間違いではないのですが、スポーツ本来の楽しくと言うことを前提にした場合グループであるべきなのです。
人間一人では生きられない、他の人の支えや交流があればこそ人生です。人生はソロではない家族を発点としたシンフォニーです。チームです。
今年のサッカーワールドカップ決勝進出PK戦で日本選手の一人がミスッた。全員が彼を庇い元気づけた。ここに日本のチームワークのすばらしさが芽生えたように思うのですが・・・ここにこそチームのすばらしさの原点があるのだと思います。  

米国には教会を中心としたコミュニティーが歴史的に存在しています。日本では戦争中の隣組か、長屋の八さん熊さんグループぐらいでしょうか? つまり現代日本には本来のコミュニティー(地域社会共同体)が無かった。これからは地域の共同体がますます必要となる時代でしょう。ボウリングリーグこそこれからの時代に見合ったスポーツだとわたくしは思うのです。
もっとも古いスポーツでありながら、これからの時代のもっとも新しいスポーツなのです。

残念ながら本山ボウルは現在全てのリーグがシングルスです。
18レーンというキャパシティがそうさせてきたのですが、そして参加者の他人に迷惑をかけたくない意識がそうさせてきましたが、これからはだんだんにチーム戦にシフトしていきたいと考えています。  

米国でもっとも古いリーグは、1902年にスタートしたニューヨークバンカーズリーグだそうです。いまでも延々100年以上続いていて、そこに入りたいチームがウエイティングしているとのこと。
日本では昭和28年にスタートしたTBCレディースリーグが1番古くこれまた現在でも行われているそうです。昭和39年、わたくしが手がけたハタHDCPトリオリーグもいまだに続けられています。第1回目に参加したボウラーと2~3年前のJAPANカップで久しぶりにお会いできて感激したものです。リーグは歴史を創るもの。
わたくしの友人の多くは当時からのリーグ仲間が中心です。  

古いタイプの人に対してて、古いスポーツの概念から抜けだそうよと言っても無理かもしれませんが、(わたくしは古すぎるタイプです)少しずつでもボウリングの本質をおわかりいただくよう努力をしていきたいと思っております。それがまた経営上の道でもあると考えるのです。
現在約18本行われていり本山のリーグはすべからくLTBからのものです。古いタイプの方は基本的にリーグをご存じないから、体験的に覚えたボウリングから抜け出せないでいるのだと思います。ですからトーナメント中心になるのです。ここに我が国の経営上の問題点があると思います。経営者がボウリングを学んで来なかった。ですからお客様もリーグを学んで来られなかったのでしょう。  
オープンさせれば儲かるという次元でしか経営してこなかった。経営が苦しい時代に再びなってもすでにリーグを教える人がいなくなっているのです。  

基本的リーグは ①5人チーム戦 ②HDCP ③総当たり ④32週以上 ⑤飲んだり食べたりしながら  こんなリーグがいま日本でありますか? 
あったら是非教えてほしいものです。学びに行きます。  
いまわれわれはボウリングの本質、原点に返るべきと思うのです。わたくしが経営を担当する以上このリーグ志向のスタンスは崩しません。それが楽しいからであり、ボウリングの本質だからです。反論おおいに歓迎いたします。ここで議論を戦わせましょう。

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投稿者プロフィール

すみ光保
すみ光保
1935年11月8日、東京都生まれ。1967年1月にライセンスNo.4の第1期生プロボウラーとしてデビューする。ボウリングインストラクターライセンスはマスター。プロボウリング協会創設メンバーでもあり、プロボウリング協会に貢献した人物。2014年4月逝去。株式会社スミ、初代代表取締役。

主な著作は、子供とボウリング(ぎょうせい出版)、ボウリング(ぎょうせい出版)、ボウリング(日本テレビ出版)、NBCJインストラクターマニュアル、ブランズウィック発行マニュアルなど多数。